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東京高等裁判所 平成9年(ネ)404号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告) 株式会社加藤製作所

被控訴人・附帯控訴人(原告) 株式会社神戸製鋼所

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴及び請求の拡張に基づき、原判決主文三項、四項を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金四億五一一七万円及び内金一億四二五六万円に対する平成五年一月一日から、内金一億〇〇九八万円に対する平成六年一月一日から、内金一億〇六六五万円に対する平成七年一月一日から、内金九六六六万円に対する平成八年一月一日から、内金四三二万円に対する平成八年八月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(請求の拡張部分を含む)を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じ(附帯控訴を含む)これを三分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四  この判決の第二項1は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴について

1  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求(当審で拡張した請求を含む)を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 主文一項と同旨

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

二  附帯控訴について

1  被控訴人

(一) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人は被控訴人に対し、金一〇億六〇五六万円及び内金二億六九二八万円に対する平成六年一月一日から、内金二億八四四〇万円に対する平成七年一月一日から、内金二億五七七六万円に対する平成八年一月一日から、内金一一五二万円に対する平成八年八月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  控訴人

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」(原判決五頁一行ないし五八頁六行〔知裁集二九巻一号四頁一二行目ないし二八頁一三行目〕)と同一であるから、これを引用する。

一  原判決一七頁七行ないし一九頁一〇行〔同上、一〇頁七行目ないし一一頁八行目〕を次のとおり改める。

「9 損害額

(一)  控訴人は、次のとおりイ号物件を販売した。

(1)  平成三年一二月から同四年一二月まで 合計 五二八台

(2)  平成五年一月から同年一二月まで   合計 三七四台

(3)  平成六年一月から同年一二月まで   合計 三九五台

(4)  平成七年一月から同年一二月まで   合計 三五八台

(5)  平成八年一月                一六台

(総合計 一六七一台)

(二)  右行為は本件意匠権を侵害するから、控訴人は、その侵害の行為について過失があったものと推定される。また、控訴人の右行為は不正競争行為であるが、不正競争行為は控訴人の過失に基づくものである。

(三)  自走式クレーンは、一般に実施料相当額が三パーセントと報告されている大衆消費財とは異なり、大型の耐久消費財であって製造販売台数が限られていること、購入動機に占める本件意匠の比重がきわめて高いことなどからして、本件意匠権の実施料率は四パーセントを下らない。

イ号物件の一台当たりの販売価格は一八〇〇万円であるから、被控訴人は、控訴人の前記販売行為により、次のとおりの実施料相当額の損害を被った。

(1)  平成三年一二月から同四年一二月まで 三億八〇一六万円

(2)  平成五年一月から同年一二月まで   二億六九二八万円

(3)  平成六年一月から同年一二月まで   二億八四四〇万円

(4)  平成七年一月から同年一二月まで   二億五七七六万円

(5)  平成八年一月              一一五二万円

(合計 一二億〇三一二万円)

10 結語

よって、被控訴人は、控訴人に対し、意匠権の侵害又は不正競争防止法違反を理由として、意匠法三七条一項及び二項、又は不正競争防止法二条一項一号、三条一項及び二項に基づき、各イ号物件の製造販売の差止めと廃棄を求めるとともに、意匠法三九条二項又は不正競争防止法五条二項に基づく実施料相当損害金として、合計一二億〇三一二万円(原判決認容分一億四二五六万円を含む)及び内金二億六九二八万円に対する平成六年一月一日から、内金二億八四四〇万円に対する平成七年一月一日から、内金二億五七七六万円に対する平成八年一月一日から、内金一一五二万円に対する平成八年八月一日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

二  同二一頁三行ないし六行〔同上、一二頁四行目ないし六行目〕を次のとおり改める。

「8 請求原因9(一)は認める。同(二)、(三)は争う。

クレーン車のような重建設機械の購入者は限られており、実際の販売では他社との競争によってかなり割り引かれて販売されるのが常であり、イ号物件の定価(一八〇〇万円)は値引額の目安になるにすぎない。控訴人は、イ号物件を一台当たり一五〇〇万円以下で販売しているのが実情であり、イ号物件の販売によっては全く利益が生じていない状態である。

三  同二一頁八行ないし三五頁三行〔同上、一二頁八行目ないし一八頁六行目〕を次のとおり改める。

「1 本件意匠の要部

本件意匠においては、「ブーム基部より前方、キャビン後側部上方附近のブーム上面に、ブームを跨ぐように設置されている、前後の長さ及び上下の高さがいずれもキャビンの略三分の一、上縁最後部がキャビンの天井部とほぼ同じ高さにある、正面視において横瓢箪型の覆いが取り付けられたウインチ」、「ブーム支持フレーム後端部に配設されている、右側面視においてブーム支持フレーム後端部の左右に広がり、縦がキャビンの略二分の一、横が車幅よりやや短い横長方形で、前方のキャビン上部とブームの殆どを覆い隠す横長方形の、平面視において略台形状の分厚いカウンターウエイト」、及び、「全高/全長比が〇・三七、全高/全幅比が一・二五で、車高が低く、全体として左右(前後)に伸長した形状」が、その要部を構成するというべきである。

以下詳述する。

(一)  本件意匠に係るクレーンの需要者は建設揚重業者なるクレーンを扱う専門家であり、何よりもクレーンの能力や機能に強い関心を持っている。したがって、看者は、意匠を見る場合にも機能と関連づけて観察する。そして、ウインチは、クレーンにとって最も重要な吊上げ能力に直接関係するので、看者はその存在に強い注意を払うのである。

本件意匠においてウインチはブーム上に載っているが、このような構成は従来のクレーンにないものであり、新規であるから、大きなウインチかブームに載っていることそれ自体で、視覚上看者の注意を惹く。しかも、ウインチは重いから、その重いウインチが上に載っているブームは余計に重い。そのような重いブームを上方回動させるとすると吊上げ能力に影響がありはしないか、重心が高くなり安定性を損なうのではないか、また、運転席の左側後方の視界を遮らないかなど、機能と関連づけて観察する看者に対して、本件意匠のウインチはますますその注意(関心)を惹きつけるのである。

次に、このウインチの位置と機能上関連するのがカウンターウエイトである。ウインチが載って一層重くなったブームとのバランスを取るためにカウンターウエイトが必要となるのである。このカウンターウエイトの存在も、従来のクレーンには見られない新規なものである。したがって、それ自体で看者の注意を惹く。しかも、このカウンターウエイトは、ブーム支持フレームの上部後端部の左右に広がり、後方(右側面)から見た場合、その前方の上部旋回体を殆ど遮ってしまうほど大きなものである。これは後方から見る看者に威圧感を与える。さらに機能と関連させると、これがウインチの位置に必然的に伴うものであること、重心がさらに高くなること、運転席後方の視界が殆ど遮られることが理解でき、より一層看者の注意(関心)を惹きつけるのである。

以上のとおり、本件意匠におけるウインチとカウンターウエイトは、視覚上はもちろんのこと、機能と関連づけるとなお一層のこと、看者の注意を最も強く惹く部分の一つであり、本件意匠の要部を構成するというべきである。

(二)  本件意匠は、全高/全長比が〇・三七、全高/全幅比が一・二五で、車高が低い。また、正面視において顕著であるが、全体として左右(前後)に伸長した、空間の多い構成であり、下部走行体後端部上方に搭載したエンジンボックスの前縁部と上部旋回体後縁部との間には大きな空間が存在し、また、収縮・収納状態のブームの先端部(ブーム全長の約四分の一)が下部走行体の先端より突出し、その下方にも大きな空間が存在する。これらは、従来にはない新規な形状であるうえ、安定感やスマートさ、さらに産業機械らしくない意外性、といった印象を看者に与える。

したがって、これらの形状も本件意匠の要部を構成するというべきである。

(三)(1)  被控訴人が主張する要部Aは前下がり状態のブームの配設位置について述べたものにすぎない。そして、ブームはもともと上下に回動するものであり、ブームを現場走行時に水平にするか前下がりとするか、あるいはキャビンの上部に配設するかどうかは、クレーンの走行時の安定性等の観点から適宜に採用される慣用手段であり、正面視においてブームが左下がり(前下がり)になるというのは、上下に回動するブームの一態様(姿勢)を示すものにすぎず、従前から他のクレーンでも採用されてきたクレーン設計上の常識的慣用手段であって、何ら本件意匠に特有の新規な形状ではない。控訴人も、本件意匠が出願される一五年以上も前に、格納時においてブームが前下がりのクレーンを実施していた。また、要部Bは、キャビン、ブーム、機器収納ボックス等の配置関係を述べたものにすぎず、このような配置関係は、控訴人が実施した前下がりブームの自走式クレーンでも採用されていたし、当業者であれば適宜に行うことであって、何ら新規な創作性を含むものではない。

したがって、被控訴人が主張する要部A及びBは、多数の公知意匠に示されるように、クレーン設計上の慣用的手段の一つにすぎず、これらは具体的物品の新規な形状をいう意匠の要部とはなり得ない。

(2) 意匠法一〇条によれば、意匠権者は、「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」につき類似意匠登録を受けることができると規定されており、このことは、類似意匠出願前の第三者の先行意匠や公知意匠に類似するものは登録を受けることができないことを意味し、特許庁の意匠審査基準においてもこの趣旨が明記されている。

被控訴人は、本件意匠の類似意匠登録を併せて二八件受けているが、被控訴人がその内の二四件の類似意匠を出願する以前である平成三年一二月に、控訴人はイ号物件Iの販売を開始し、右類似意匠の出願時には、イ号物件は市場で周知となり好評を得ていた。したがって、これら二四件の類似意匠はすべてイ号物件とは非類似であるが故に登録されたものであり、二四件もの類似意匠がイ号物件と非類似であるのは、そもそも本件意匠の類似範囲にイ号意匠に属さないこと、すなわち本件意匠とイ号意匠とが非類似であるからにほかならない。そして、本件意匠の要部の認定に当たっては、イ号物件Iの販売が開始される以前に出願された四件の類似意匠と本件意匠とを考察の対象とすれば足りる。

また、控訴外株式会社小松製作所及び小松メック株式会社は、右二四件の類似意匠が出願される以前の平成三年五月一〇日及び同月二七日に、クレーン車についての二件の意匠(以下「小松意匠」という。)を出願し、平成五年一〇月一二日付けで登録されているが、小松意匠は、いずれも被控訴人が本件意匠の要部であると主張するA及びBの構成を有している。

したがって、小松意匠は、各部の具体的形状が異なるため、本件意匠とは類似しないと判断されて登録されたものであることは明らかであり、小松意匠が登録されたことは、被控訴人が主張する要部A及びBの構成が本件意匠の要部ではないこと、及び、クレーン車のような高度に技術的で専門業者間でのみ取引される物品の意匠の類似範囲は極めて狭く解釈されることをそれぞれ示している。

2 本件意匠とイ号意匠との非類似

(一)  イ号意匠では、ウインチはブーム支持フレーム下部後方に位置し、ウインチ収納ボックス内に隠れている。これは、従来からある、ありふれた構成である。また、カウンターウエイトはない。

右のとおり、イ号意匠は、ウインチ(視覚上)及びカウンターウエイトを有しないので、本件意匠の要部を具備せず、したがって、両意匠は類似しない。

また、ウインチ及びカウンターウエイトの有無という差異は、看者に対して全く異なった印象を与える。

まず、本件意匠のウインチ及びカウンターウエイトは、前記のとおり、いずれも視覚上の効果が大きいうえに、常に機能と関連させる看者に対して、その関心を惹かずにはいられないものである。これに対して、イ号意匠は、ウインチ(視覚上)及びカウンターウエイトもない、ありふれた形状、構成であり、視覚上も構成上も看者の注意を惹かない。

次に、本件意匠は車高が低く、看者に安定感のあるスマートな印象を与えるが、さらに観察を進めると、上部旋回体の高い位置に重いウインチとカウンターウエイトがあるため不安定感を引き起こし、その結果、ミスマッチ、アンバランス、矛盾、複雑といった印象を与える。これに対して、イ号意匠は車高が高く、スマートでもなく、ありふれており、本件意匠のような難解な印象を与えることはない。

以上によれば、ウインチ及びカウンターウエイトの有無という両意匠の差異は、個別的に対比しても、全体的形状との関連において対比しても、看者に対して全く異なった印象を与える。したがって、両意匠は類似しないというべきである。

(二)  全体の印象として、本件意匠は全体として平たく走行方向に縦長形状を呈するのに対して、イ号意匠はやや背が高く(全高/全長比が〇・四二、全高/全幅比が一・四三)、コンパクトにまとまった形状を示す。しかも、必要とする機能を外形にそのまま現出し、複雑な形状外観を示す本件意匠に対し、イ号意匠は機能を外観には見えないところに取り込んで、簡素単純な形状外観にとりまとめている。目につく突出部はイ号意匠では滑車(シーブ)だけであり、その他の部材は収納ボックスに収められているのに対し、本件意匠ではウインチの複雑な形状がそのままブームに跨がって、キャビンの四角箱状の外形をも削ってキャビンの内外とも複雑な形状を示す。また、ブーム基部の大きなカウンターウエイトがさらに形状を複雑にしている。また、前方に突出するブームの先端はブーム長の約四分の一を下部走行体前縁より前方に突出しているが、イ号意匠ではこの前方の突出はわずかである。このことが、本件意匠が平べったく見える外観の原因の一つともなっており、イ号意匠のやや背の高いキャビンと短い突出部とが相まって、コンパクトなまとまりを見せているのとは対照的である。

さらに全体的印象として、イ号意匠が本件意匠に比べてはるかにプレーンな印象を受けるのは、単純な箱体を重ねただけで仕上げられているからであり、他方、本件意匠が複雑な形状外観の印象を与えるのは、突出部が多いほか機器部材がバラバラに位置していることにも由来する。

これを説明すると、本件意匠では、ブームにウインチが載せられ、シーブ(滑車)がない。上部旋回体下部後縁部とエンジンボックスの前縁部との間に大きな空間(隙間)がある。上部旋回体後端は、上からキャビン、その下にブーム基部が後方に突出し、その下に前方に平行四辺形の機器収納ボックス(下部後縁部)があり、これら三者のうち中間のブーム基部だけが後方に突出する形状となっている。そして、その後方に突出したブーム基部の左右に大きな箱状のカウンターウエイトが張り出している。また、ブームが長く、その約四分の一が下部走行体前縁より前方に突出し、下部走行体の上面は水平状である。

これに対し、イ号意匠は、ブーム上には何もなく、その基部頂部にシーブが突出し、ブーム支持フレーム下部後縁部は、ウインチ収納ボックスが、その後方にエンジンボックス前縁まで張り出している。本件意匠ではここが空間になっていたが、イ号意匠ではうまっている。その代わりカウンターウエイトはない。上部旋回体後端は、上からキャビン、その下後方にブーム基部、その下後方にウインチ収納ボックスがあり、これら三者が上から下に順に後方に突出する階段状を形成している。ブームは短く、その先端部分がわずかに下部走行体前縁より突出するだけで、下部走行体上面はその前方が前下がりのブームと平行に、前方に向かって傾斜している。

要約すると、本件意匠は、ウインチとカウンターウエイトを高い位置に設けたこと、そのため高重心であること、また複雑な形状を呈すること、しかもそれでいて全体として平らで前後に伸長した形状であることが外観上の特徴である。

これに対して、イ号意匠は、ウインチは下方のボックスに納められており、カウンターウエイトもない(そもそも存在しない)こと、そのため低重心であること、また、単純で簡素な階段状であること、しかし全体としては前後が詰まった縦長のずんぐりした形状であること、が特徴である。

両者が非類似であることは一見して明白である。」

四  同三九頁一行目〔同上、一九頁末行から二〇頁一行目にかけて〕の「明らかであり、」から同頁三行目〔同上、二〇頁二行目〕の「解すべきである。」までを、「明らかである。」と改める。

五  同四二頁一行ないし四三頁一〇行〔同上、二一頁七行目ないし二二頁三行目〕を削り、四三頁末行〔同上、二二頁四行目〕の「(三)」を「(二)」と改める。

六  同四五頁七行目〔同上、二二頁一七行目〕の「原告は、」から四六頁一行目〔同上、二三頁三行目〕の「配設位置関係とすることで、」までを、「被控訴人は、本件意匠の要部である、斜め(前下がり)に配設されたブームとキャビン、エンジンボックス、器機収納ボックス及び下部走行体等のクレーン車における他の構成要素との配設位置関係を具体的に特定したことで、」と改める。

七  同五八頁一行目〔同上、二八頁一〇行目〕の「損害賠償額の推定が否認されるものでもない。」を「実施料相当額の損害金の支払いを免れるものではない。」と改め、同頁五行目から六行目にかけて〔同上、同頁一三行目〕の「事後行為であり、損害賠償額の推定を覆す理由とはならない。」を「事後行為にすぎない。」と改める。

第三証拠〈省略〉

理由

第一当裁判所の判断

当裁判所の判断は、次のとおり、付加、訂正するほか、原判決理由説示(原判決五八頁一〇行〔知裁集二九巻一号二八頁一六行目〕以下)と同一であるから、これを引用する。

一1  原判決六二頁一〇行目〔同上、三〇頁一四行目〕の「後方」の前に「若干」を加える。

2  同六六頁五行目〔同上、三二頁八行目〕の「六角形状の」を「六角形状でいずれも角に多少のアールを付した」と改める。

3  同六八頁五行目〔同上、三三頁五行目〕の「後方位置」の前に「若干」を加える。

二  同六九頁四行ないし七一頁末行〔同上、三三頁一二行ないし三五頁六行目〕を次のとおり改める。

「四 本件意匠の要部

意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。

成立に争いのない甲第一三号証ないし甲第一六号証(原本の存在及び成立に争いのない甲第一一号証の二の七ないし一〇、甲第一二号証の二の七ないし一〇、甲第一八号証の二の二ないし四、甲第一八号証の二の五の一、乙第二四号証の七の一も同一のもの)、原本の存在及び成立に争いのない甲第一八号証の二の五の二及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠の登録出願前において、二〇トン以上の中・大型ラフテレーンクレーンについては、走行時のブーム収納状態において、ブームは基端部が下部走行体の後端部上方に位置し、キャビンの天井とほぼ同じ高さにおいてキャビンの窓の側部を横切り、前方にほぼ水平状態にまっすぐ伸び、先端部が下部走行体の先端より大きく前方に突出して下部走行体より大きく離間した位置に配設されたタイプのものが一般的であったことが認められ、この事実と、原本の存在及び成立に争いのない甲第一一号証の二の一一ないし一五(甲第一二号証の二の一一ないし一五も同一のもの)、甲第一八号証の二の六、同号証の二の一〇、乙第二四号証の七の二ないし七に示される自走式クレーンの公知意匠に照らすと、本件意匠のように、収縮状態のブームの基端部がキャビンの側方若干後方位置、エンジンボックスよりも前方斜め上の位置(下部走行体の中央寄りの位置)で、旋回フレームの基台から突設されたブーム支持フレームの上端部に枢着され、ブームが左下がり(前下がり)の状態でキャビンの下方側部を横切り、その先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わるように配設した構成は、公知意匠には見られない新規なものと認められること(甲第一八号証の二の一二の一・二及び乙第一七号証に示されている自走式クレーン車における収縮・収納状態のブームは前下がりとなっているが、同クレーン車はクローラー式クレーンであって本体意匠と基本的構成を異にするうえ、キャビン、エンジンボックス及び器機収納ボックスがブーム及びブーム支持フレームを取り囲むように一体となっており、しかもブームの前下がりの傾斜の程度は僅かであって、上記認定を妨げるものではない。)、自走式クレーンの用途及び使用態様からして、本件意匠の基本的構成を形成する、キャビン、機器収納ボックス、ブームの各概要的な構成態様や、下部走行体と、キャビン、機器収納ボックス、ブーム相互の配設関係等が、取引者・需要者にとって、購入選択等する場合の重要な要素と考えられることからすると、本件意匠の要部は次の構成に存するものと認めるのが相当である。

1  正面視において下部走行体の略中央の位置にあり、下部走行体の全長の二分の一弱で、背面視において右方(前方)下部が前方に突出した横長変形六角形の高い箱体状のキャビンと、高さがキャビンの略三分の一の前後に長い箱体状の機器収納ボックスとの間に、収縮・収納状態のブームがキャビンの下方側部を前下がりの状態で横切り、正面視において中央部下方の一部が機器収納ボックスに隠れるように配設された、キャビン、機器収納ボックス及びブームの構成態様及び配設関係

2  収縮・収納状態のブームの基端部が、キャビンの側方の若干後方位置で、かつ、下部走行体の後端部上方に搭載されたエンジンボックスの前方斜め上の位置で旋回フレームの基台から突設された正面視略直角三角形状のブーム支持フレームの上端部に枢着され、機器収納ボックスとキャビンの間を前下がりの状態で横切るブームの先端部が下部走行体の先端より若干突出して下部走行体に近接した位置で終わる構成態様並びにブーム支持フレーム、ブームとエンジンボックスを含む下部走行体及びキャビンとの配設関係

五1  控訴人は、本件意匠の要部について、当事者の主張三1のとおり主張するが、右主張は採用することができない。すなわち、

(一) 本件意匠に係る物品である自走式クレーンの用途、機能に照らすと、ウインチ及びカウンターウエイトが取引者・需要者において関心をもって見る部分であり、注意を惹く場合があることは否定できないが、ウインチ及びカウンターウエイトは、いずれも本件意匠全体の構成の中にあってその一部を形成する要素にすぎず、その形態も特に特徴のあるものとは認められないこと、前記甲第一一号証の二の一二によれば、ウインチをブームの上部に配設したクレーン車は本件意匠の出願前公知であると認められるところ、この種の物品の属する分野においては必要に応じてウインチの位置を多少変更する、すなわち、ブームの上端に取り付けるか、ブームの内部に内蔵するかといった程度のことは容易になし得る事項であると考えられることからすると、ウインチの位置及び形状、ウインチの位置との関連で必要となるカウンターウエイトの存在及び形状が、本件意匠の要部を形成するものとまでは認められない。

ちなみに、成立に争いのない甲第一八号証の一によれば、控訴人自身、本件意匠登録の無効審判請求事件において、「『ブームの基部上方に巻き上げウインチが配設』されている点の形状については、若干特色を有する形態とは言えるものの、この分野における通常の知識を有するものであれば必要に応じて設計変更により容易にウインチの配設位置を設定できる範囲内のものであり、従ってこの点についても格別に新規な創作があったとは思えない。」(同号証四頁一二行ないし一八行)と主張していることが認められる。

次に、本件公報によれば、本件意匠は、全高/全長比が〇・三七、全高/全幅比が一・二五であることが認められるが、例えば、前記甲第一三号証に示されているクレーン車の全高/全長比は〇・三三、全高/全幅比は一・三五であり、前記甲第一四号証に示されているクレーン車の全高/全長比は〇・三四、全高/全幅比は一・三九であることが認められるから、本件意匠に係る自走式クレーンの車高が公知のものと比較しても特に低いということはできない。

また、本件公報によれば、本件意匠は、下部走行体後端部上方に搭載したエンジンボックスの前縁部と上部旋回体後縁部との間には空間が存在することが認められるが、例えば、前記甲第一四号証に示される公知意匠と対比しても、右空間が特に大きいものとは認められず、右空間の点に本件意匠の特徴があるとは認められない。

なお、控訴人は、正面視においてブームが左下がり(前下がり)になるのは、上下に回動するブームの一態様(姿勢)を示すものにすぎず、クレーン設計上の常識的慣用手段であって、本件意匠に特有の新規な形状ではない旨主張するが、ブームについて、左下がり(前下がり)の点だけを捉えて本件意匠の要部を構成する要素としているわけではない。」

三1 同八六頁一〇行目〔同上、四一頁七行目〕の「前記二ないし四の事実に基づいて本件意匠とイ号意匠とを対比すると、」を、「前記二、三に認定の本件意匠とイ号意匠の各構成を対比すると、」と改める。

2  同八七頁五行目〔同上、四一頁一一行目から一二行目にかけて〕の「前方に向かって」の後に「低くなるように」を加える。

3  同八七頁九行目〔同上、四一頁一五行目〕の「略二分の一」の後に「弱」を加える。

4  同八八頁九行目〔同上、四二頁三行目〕の「後方位置」の前に「若干」を加える。

四  同九二頁末行ないし九三頁七行〔同上、四四頁二行目ないし七行目〕を次のとおり改める。

「3(一) 本件意匠とイ号意匠とは右1に認定の構成において一致し、イ号意匠は前記四に認定の本件意匠の要部を具備するものであって、両意匠を全体的に観察した場合、看者に共通の美感を与えるものであり、イ号意匠は本件意匠に類似するものと認められる。

本件意匠とイ号意匠との間には右2に認定の相違点があるが、いずれも本件意匠の要部に関しない部分についてのもの、あるいは細部についてのものであって、右相違点によって、前記共通の美感を凌駕し、別異の美感をもたらすものとは認められない。

(二) 控訴人は、本件意匠とイ号意匠とは非類似であるとして、当事者の主張三2のとおり主張する。

しかしながら、前記説示のとおり、ウインチの位置及び形状、ウインチの位置との関連で必要となるカウンターウエイトの存在及び形状は、看者の注意を惹く場合があるとしても、本件意匠の要部を形成するものとまでは認められず、本件意匠とイ号意匠におけるウインチ及びカウンターウエイトの有無という相違によって、両意匠の全体的な観察において看者に対して全く異なった印象を与えるものとは認められない。

前記のとおり本件意匠は全高/全長比が〇・三七、全高/全幅比が一・二五であるのに対して、別紙イ号物件目録(一)及び(二)によれば、イ号意匠は、全高/全長比が〇・四二、全高/全幅比が一・四三であることが認められ、両意匠を対比すると、イ号意匠は本件意匠に比較して車高が高いが、その相違の程度は格別顕著なものとは認められず、少なくとも前記本件意匠の要部を具備することによってもたらされる共通の美感を左右するには至らないものと認められる。

控訴人は、本件意匠は、ウインチとカウンターウエイトを高い位置に設けたこと、そのため高重心であること、複雑な形状を呈すること、全体として平らで前後に伸長した形状であることが外観上の特徴であり、イ号意匠は、ウインチが下方のボックスに納められており、カウンターウエイトはないこと、そのため低重心であること、単純で簡素な階段状であること、全体としては前後が詰まった縦長のずんぐりした形状であることが外観上の特徴である旨縷々主張する。

しかしながら、本件意匠とイ号意匠におけるウインチ及びカウンターウエイトの有無、車高の相違によって、共通の美感が左右されるものでないことは前記説示のとおりである。

その他、本件意匠とイ号意匠における上部旋回体下部後端部とエンジンボックスの前縁部との間の空間の広狭、ブームが下部走行体前縁より前方に突出している部分の長さに若干の相違が存するが、これらの点を含めて全体的に観察しても、両意匠を非類似とすることはできない。

したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。」

五  同九四頁三行ないし九七頁四行〔同上、四四頁一二行目ないし四六頁一行目〕を次のとおり改め、九七頁五行〔同上、四六頁二行目〕以下を削除する。

「八 そこで、被控訴人の被った損害額について検討する。

1  控訴人が、イ号物件を次のとおり販売したことは、当事者間に争いがない。

(一) 平成三年一二月から同四年一二月まで 合計 五二八台

(二) 平成五年一月から同年一二月まで   合計 三七四台

(三) 平成六年一月から同年一二月まで   合計 三九五台

(四) 平成七年一月から同年一二月まで   合計 三五八台

(五) 平成八年一月                一六台

(総合計 一六七一台)

そして、弁論の全趣旨によれば、イ号物件は定価が一台当たり一八〇〇万円であることが認められる。

2  そこで、本件意匠の実施に対して通常受けるべき金銭の額に相当する額について検討するに、ホイールクレーンは大型の耐久事業用機械であって製造台数も限られ、各種工事現場等で汎用される機種であるが、反面、一台当たりの価格が高額であるうえ、需要者は自己の目的とする作業内容や現場の状況を前提として、大きさも含めたホイールクレーンとしての性能を重視して機種を選択するものであって、一般消費者向けの商品等とは異なり、需要者の選択に当たってデザインが影響する度合いはさほど高くないものと推認される。ホイールクレーンの右のような特殊性を考慮すれば、本件意匠の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、イ号物件の定価に一・五パーセントの実施料率を乗じて算出するのが相当である。そうすると、被控訴人の受けるべき実施料相当の損害額は、次のとおりと認められる。

(一) 平成三年一二月から同四年一二月まで 一億四二五六万円

(一八〇〇万円×五二八台×〇・〇一五、以下同様の計算式による。)

(二) 平成五年一月から同年一二月まで   一億〇〇九八万円

(三) 平成六年一月から同年一二月まで   一億〇六六五万円

(四) 平成七年一月から同年一二月まで     九六六六万円

(五) 平成八年一月               四三二万円

合計 四億五一一七万円

右各金額を超える実施料相当の損害額を認めるに足りる証拠はない。

仮に、控訴人が主張するとおり、実際にはイ号物件が前記定価から値引きされて販売されているとしても、通常の実施許諾の際の実施料は、売主と個々の需要者との関係等種々の要因によって定める個々まちまちの値引き後の価格ではなく、値引き前の価格を基準として算出されるのが通常であると推認されるから、イ号物件の前記定価を基準として「通常受けるべき金銭の額」を算出するのが相当である。

3  右のとおりであって、被控訴人の損害賠償請求はその一部を認めることができないが、その点は、仮に控訴人の行為が不正競争行為に該当するとしても同様であるから、不正競争行為の存否について判断するまでもなく、右2認定の損害額を超える損害は認めることができない。」

第二結論

以上のとおりであって、被控訴人の請求(附帯控訴による請求拡張部分を含む)は、控訴人に対し、イ号物件の製造、販売、販売のための展示の差止及びイ号物件の廃棄を求める部分、並びに、金四億五一一七万円及び内金一億四二五六万円に対する平成五年一月一日(不法行為以後の日、以下同じ)から、内金一億〇〇九八万円に対する平成六年一月一日から、内金一億〇六六五万円に対する平成七年一月一日から、内金九六六六万円に対する平成八年一月一日から、内金四三二万円に対する平成八年八月一日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。

よって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却し、附帯控訴に基づき、原判決主文三項を主文二項1のとおり変更し、被控訴人のその余の請求(附帯控訴による請求拡張部分を含む)を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六四条、六一条、仮執行宣言につき同法二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濱崎浩一 裁判官 市川正巳)

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